地域DX共創事業「DX LAB KTQ」における共創事例をご紹介します。
今回は西日本医業デジタル研究会様の事例です。

地域医療の未来を支える─西日本医業デジタル研究会の共創活動

医療機関のデジタル化が叫ばれる中、地域のクリニックや診療所が抱える課題に応えるべく始動した「西日本医業デジタル研究会」。代表は北九州市と福岡市を拠点に事業を展開するコンサルティング企業、佐々木総研グループのDX推進支援部マネージャーを務める綾部一雄さん。同研究会は、医療機関の効率的なデジタル移行の支援と、地域医療の質の向上を目指しています。

この記事では綾部さんに、医療機関におけるデジタル技術の導入における具体的な取り組みや共創活動による地域全体のDX推進、そして今後のビジョンについて詳しく伺いました。

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「西日本医業デジタル研究会」代表の綾部一雄さん

「西日本医業デジタル研究会」概要と設立の背景

ーー西日本医業デジタル研究会の設立経緯と背景について教えてください。

綾部さん: 地域の医療機関のデジタル化を推進するため、当社のDX支援の経験を活かして研究会を立ち上げました。当社は以前から医療機関のコンサルティングを行っており、デジタル化の遅れが課題と認識していました。コロナ禍で対面中心の業務の問題が浮き彫りになり、また当社の顧客の半数が医療・介護・福祉分野だったため、現場の課題を解決するためにサポートを行いたいと思いました。

佐々木総研とDXとの関わり

ーー佐々木総研が本格的にDXに取り組むきっかけをお聞かせください

綾部さん:佐々木総研は長年、税理士事務所として紙の顧客資料や会計書類を風呂敷に包んで持ち運ぶ伝統的なスタイルを採用していました。しかし、コロナ禍で在宅勤務が広がり、この非効率な紙ベースの業務が問題になったため、デジタル化を進めることにしました。

ーーDX推進で苦労したことはありますか?

綾部さん:DXの初期段階としてRPA(ロボティクス・プロセス・オートメーション)を導入し、事務作業の自動化を図りました。しかし、導入当初は現場から「自分たちの仕事が減るのではないか」という不安の声が上がりました。

ーー現場の理解を得るのは大変だったのではないですか?

綾部さん:そこで「DX推進室」を立ち上げ、従業員の意見を集約しながら、現場と一緒に改善に取り組む体制を作りました。「今のままがいい」という声もありましたが、このような取り組みを続けることで、現場の意識改革が進んでいきました。

地域医療DXの現状と課題

ーー現在、地域医療においてデジタル化が進みにくい原因は何だと思いますか?

綾部さん: デジタルシステム自体はすでに十分に存在しており、低コストで業務システムを構築することも可能です。しかし、それを使いこなすための知識や、業務フローを見直す意識が現場に浸透していないことが課題です。たとえば、システムを導入しても一部しか活用されず、結果的に業務の効率化に繋がらないという事例も多く見られます。このように、技術だけでなく、人材や意識改革の面での支援が必要だと感じています。

「西日本医業デジタル研究会」の活動内容

ーー「西日本医業デジタル研究会」では具体的にどのような活動を計画していますか?

綾部さん: 研究会では、月に1〜2回、診療報酬DXの専門家を招いたセミナーを開催し、最新の情報や知識を共有しています。さらに、ハンズオンワークショップを通じて、デジタルツールの具体的な使い方を学ぶ場を提供しています。また、医療機関間の事例共有会では、成功事例を他施設で活用できるよう支援し、オンライン資格確認の導入や関連ツールの活用についてもアドバイスを行っています。これらの取り組みにより、現場での課題解決と業務効率化を目指しています。

ーーどのような成果を目指していますか?

綾部さん: 現場の方々や、医療に関心のある他業種の企業を巻き込み、業務自体をどんどん良くしていきたいと考えています。自分たちだけでは業務改善が難しいという方たちを支援し、そういった方々が一歩一歩前進できる場を提供したいですね。

ーー具体的にはどのように支援される予定ですか?

綾部さん: 研究会を通じて、デジタルツールの使い方やDXに慣れていける環境を整える予定です。もちろん、なかなか難しいと感じる方もいるかもしれませんが、そうした方々も含めてサポートしながら進めていきます。現場から「何が知りたいのか」を聞き取り、こちらからは「何が提供できるのか」を伝える。そういったやり取りを重ねることで、対応できる範囲を広げていきたいです。

ーー地域全体でDXを推進することの意義について教えてください。

綾部さん:個別の医療機関だけでなく、地域全体で取り組むことで、知見やノウハウが共有されます。たとえば、あるクリニックで成功した診療報酬のデジタル化が、他のクリニックでも採用されるといった相乗効果が期待できます。また、複数の医療機関がデジタル化に向けて連携することで、より迅速かつ効果的に成果を上げることが可能です。

未来への展望と地域への影響

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綾部一雄さんと佐々木総研グループ代表 佐々木大さん

ーー研究会の活動における目標について教えてください

綾部さん:まずは参加社数を増やすことです。それと同時に、参加者の要望をしっかりとヒアリングして、どのような課題に直面しているのかを洗い出すことが重要だと考えています。そのために、毎回アンケートを取り、現場での困りごとや改善ニーズを集約する仕組みを作りたいと思っています。これが活動の基礎になると考えています。

ーー活動を通してどのような効果を期待していますか?

綾部さん: 研究会では、いくつかの重要な効果を期待しています。まず、専門的な支援体制の強化です。診療報酬の専門家であるM&Cパートナーコンサルティングの協力により、診療報酬に関する最新情報や対応方法について専門的なアドバイスを受けながら、効率的にデジタル化を進められる体制を整えています。また、西日本税理士法人や西日本社労士法人と連携し、税務や労務管理の視点から現場に適したデジタル化を支援しています。

次に、デジタル化の推進です。クリニックや診療所が低予算で効率的にデジタル化を進められるよう、デジタルツールの導入サポートやハンズオンワークショップを実施しています。これにより、現場での導入障壁を取り除き、業務効率化を促進しています。

さらに、一元的な情報管理と迅速な対応も重要な効果のひとつです。デジタルツールを活用することで診療データの一元管理が可能になり、患者情報の迅速な共有が実現します。この結果、医療サービスの質が向上するとともに、業務効率も大幅に改善されることを期待しています。

最後に、医療DX推進体制の強化です。デジタル化を進めることで知識を蓄積し、ベースアップ評価料の申請準備や医療DX推進体制整備加算への対応が容易になります。これにより、医療現場での人材不足にも対処しやすくなり、今後さらに加速が予想される医療DXへの準備を整えます。急を要する対応が必要な際にも、迅速に対応できる体制の構築を目指しています。

ーー研究会が描く未来についてお聞かせください。

綾部さん: 理想としては、「北九州のクリニックや診療所はデジタル化が非常に進んでいる」という評価を得ることです。例えば、後から調査してみたら北九州だけ他の地域に比べると、大きく医療現場が効率化されていると分かるような状態を目指しています。そのためには、成功事例をどんどん作り、それを広く発信していくことが重要です。

また、成功事例だけでなく、失敗事例を共有することも重要だと考えています。何が原因でうまくいかなかったのかを明確にすることで、次に活かせる知見を得ることができます。北九州市内だけでなく、他の地域にも影響を広げ、結果として全国的に医療現場が改善されるようなモデルケースを作りたいですね。


地域DX共創事業「DX LAB KTQ」について

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公益財団法人北九州産業学術推進機構(FAIS)では、令和6年度より地域DX共創事業「DX LAB KTQ」を開始しました。

この取り組みは、北九州地域全体のデジタル化・DX推進のために共創活動に取り組む主体者の発掘から、関係性の構築を目的とした場の提供、共創活動団体の取り組み紹介、課題整理支援や課題解決に向けたソリューション提供企業(IT企業やスタートアップ等)とのマッチング、解決策の共同構築・検証のコーディネートなどを実施します。

この事業を通じ、周囲からの後押しやサポートの輪を広げ、地域内の企業がよりデジタル化・DXに取り組みやすい環境を構築し、北九州地域全体のDXを推進していきます。

これまでの活動については北九州市DX推進プラットフォーム内特設ページをご覧ください。

https://ktq-dx-platform.my.site.com/DXmain/s/meetup/dx-lab-ktq