地域DX共創事業「DX LAB KTQ」における共創事例をご紹介します。
ケア共創ネットワークの事例です。
※同団体における昨年度の取り組みについてはこちら

3Dプリンターを活用しながら介護業界の課題に取り組まれているケア共創ネットワーク様にご興味を持たれた方は、ぜひロボット・DX推進センターまでお問い合わせください。

3Dプリンターで自助具をデジタル化 ケア共創ネットワーク2年目の実践

介護現場のDX推進が求められる中、3Dプリンターを活用した自助具のデジタル化という取り組みが始まっています。しかし、技術を習得し、それを継続的に活用するには、多くの壁があります。2024年8月に始動した「ケア共創ネットワーク」は、すでにネット上に公開されている200種類超のデータを活用することで、介護現場でのDX推進に挑む。代表の山﨑駆さん(合同会社共創テクノロジー)に、介護現場特有の壁と独自アプローチを聞きました。

昨年度の課題「忘却」との闘い

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――まず、ケア共創ネットワークが3Dプリンターによる自助具のデジタル化に取り組む背景を教えてください。

山﨑さん:昨年は、介護士の方々と一緒にデジタル自助具を作り、実際にどの程度使えるかを探ることを目的に活動していました。結果としては、技術的には使えるものの、「しばらく作らないと忘れてしまう」という課題がありました。

もう少し具体的に言うと、3Dプリンターで自助具を作る際には、自分で考えた形をデータとして設計するところまでは、教えた直後であればできます。しかし時間が経つとどうしても忘れてしまう。人間なので忘却は当然起こるのですが、そのときにどうやって記憶を呼び戻してもらうか、その仕組みづくりが大事だと感じています。

福祉領域の「専門分散」問題と共創の価値

――この取り組みでは、なぜ「共創」を重視されているのでしょうか?

山﨑さん:私の会社の名前にも「共創テクノロジー」と入っており、約3年間この看板を掲げて活動してきました。団体名の「ケア共創ネットワーク」にも「共創」という言葉が入っているように、この「共創」を非常に意識しています。

特に福祉の領域は、他の分野以上に、専門知識のある人たちがバラバラに存在している状態だと感じています。医療・介護の現場や、介護ロボットなどを作る技術者、福祉用具専門相談員など、それぞれに専門家がいても、「一緒に作っていく」という考えがなければ、なかなかつながりません。

例えば、3Dプリンターを活用して自助具を広めようという活動をしている人は、各自治体に1人か2人いれば良い方です。そのため、1人で進めるのは難しいのが現状です。だからこそ、「共に創る(共創)」という考え方を福祉分野で広めていきたいという思いから、社名にも活動名にも「共創」という言葉を使い続けています。

――昨年度の活動では、どのような成果がありましたか?

山﨑さん:昨年関わった施設では、2施設とも3Dプリンターを導入いただき、実際に活用されています。3Dプリンターを使ったことで劇的に業務が改善したというわけではありませんが、「今までできなかったことができるようになった」という反応はもらっています。そうした成功体験を軸に、新たなアイデアを考えるきっかけにもなっているようです。

――活動を進める中で、新たな気づきはありましたか?

山﨑さん:単一のテクノロジーで解決できる問題は限られていることを、改めて実感しました。これまでは3Dプリンターを軸に2年間取り組んできましたが、今後は別のテクノロジーに広げていくことも必要だと感じています。介護現場には、生成AIなど、テクノロジーを活用できる「伸びしろ」がたくさんあります。

「意欲ある人ほど忙しい」構造を突破する戦略

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――今年の活動で重点的に取り組みたいことを教えてください。

山﨑さん:昨年は、3Dモデルを一から設計する方法を教えていました。しかし、時間が経つと設計方法を忘れてしまうという課題がありました。

そこで今年は、3D プリンタで自助具を共創するプラットフォーム「COCRE HUB(コクリハブ)」を活用します。COCRE HUBの講師の方をお呼びして、ワークショップ形式で実施しようと考えています。

活動場所としては、小倉北区で新しく整備された介護用品の展示施設「テクノケア北九州」(正式名称:北九州市立介護実習・普及センター)を考えており、同所に設置されている3Dプリンターを活用します。

まず目標にしているのは、「自分で3Dモデルを一から設計すること」ではなく、「すでにネット上に公開されている自助具データを、3Dプリンターで出力できる人材を増やすこと」です。――方針を転換された背景には、どのような課題認識があったのでしょうか?

山﨑さん:一番分かりやすいのは、「意欲のある人ほど忙しい」という現実です。学ぶ意欲が高い方ほど、いろいろなところに学びに行くので、一つのことに割ける時間が短くなります。

また、そういった意欲の高い方が、他の職員に教える時間を十分に確保できるかというと、それも難しいのが現状です。介護施設の現場では、人材にも時間にも余裕がほとんどないため、ここは大きな壁だと感じています。

――COCRE HUBを活用することで、その壁を乗り越えられるのでしょうか?

山﨑さん:皆さんが3Dプリンターの活用を「難しい」と感じる要因の一つは、物理的なデバイスを必要とし、さらに設計も絡むため、複雑に見えてしまうことです。しかし実際には、COCRE HUBを活用することで200種類以上の自助具をすぐに印刷できます。

2040年に向けた展望と北九州発のモデルづくり

――これからDXに取り組みたいと考える企業・団体へのアドバイスをお願いします。

山﨑さん:DXは誰かが「導入してくれるもの」ではなく、自分たちで変えていくプロセスです。まずは「課題を洗い出す」「フローを確認する」ということを丁寧に行い、その上で必要ならデジタルを活用する。その順番が大事だと考えています。

――今後の活動で、新たに取り組みたいことはありますか?

山﨑さん:まずは、3Dプリンターを活用して自助具を作る取り組みを、テクノケア北九州を起点にしっかり広げていきたいと考えています。当面の目標としては、「3Dプリンターを使って自助具を出力できる人」を増やし、その人たちが自走できる状態にすることです。そうなれば、1~2年のうちに、私が何もしなくても自発的に活用してくれる人が少しずつ増えていくのではないかと期待しています。

その先は、3Dプリンターだけにこだわらず、生成AIをはじめとした他のテクノロジーの活用へと、軸足を移していきたいと考えています。介護現場の方々からは、「3Dプリンターや生成AIよりも、目の前の業務がきつい」と言われることも多く、その気持ちはよく分かります。だからこそ、現場の負担を減らす方向でテクノロジーを活用していけるよう、テーマを少しずつシフトしていきたいと思っています。

――北九州発の取り組みとして、今後どのように展開していきたいとお考えですか?

山﨑さん:北九州は全国の中でも高齢化が進んでいる地域の一つなので、課題が先に表面化しやすい地域です。だからこそ、全国に先駆けて課題解決のモデルをつくる責任もあると思っています。人手不足や高齢化がさらに進む中で、「人の頑張りだけに頼らない仕組み」を一緒に作っていければと考えています。


地域DX共創事業「DX LAB KTQ」について

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公益財団法人北九州産業学術推進機構(FAIS)では、令和6年度より地域DX共創事業「DX LAB KTQ」を開始しています。

この取り組みは、北九州地域全体のデジタル化・DX推進のために共創活動に取り組む主体者の発掘から、関係性の構築を目的とした場の提供、共創活動団体の取り組み紹介、課題整理支援や課題解決に向けたソリューション提供企業(IT企業やスタートアップ等)とのマッチング、解決策の共同構築・検証のコーディネートなどを実施します。

この事業を通じ、周囲からの後押しやサポートの輪を広げ、地域内の企業がよりデジタル化・DXに取り組みやすい環境を構築し、北九州地域全体のDXを推進していきます。

これまでの活動については以下ページをご覧ください。

https://www.ksrp.or.jp/robo-dx/business/dx/meetup/