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2026年3月26日、北九州国際会議場で開催されたイノベーションカンファレンス「WORK AND ROLE 2026」内で、北九州市と公益財団法人北九州産業学術推進機構(FAIS)の共催による「令和7年度北九州市DX推進フォーラム」が開催されました。

本フォーラムは「地域DX推進の現在地と未来」をテーマに実施されました。第1部では「令和7年度北九州DX大賞 表彰式・事例発表会」として北九州市内の先進的事例を紹介し、第2部では「パネルセッション①『地域DX推進の現在地』」「地域DX共創プログラム「HAGUKUMI」最終発表会」「パネルセッション②『地域DX推進がもたらす未来』」を通じて地域全体のDX推進の現在と未来を展望する2部構成で行われました。

これらのセッションでは、地域企業による実践事例の共有に加え、地域でDXを進める上での課題や可能性、さらにAI時代を見据えた産業構造の変化まで、多角的な視点から議論が交わされました。

第1部「令和7年度北九州DX大賞 表彰式・事例発表会」

第1部では、市内の中堅・中小企業などが実施するDXの優良事例を表彰する「北九州DX大賞」の表彰式と事例発表会が行われました。北九州DX大賞は、地域におけるDXのモデルケースを発信することを目的に、令和5年度にスタートし、今回で3回目の実施となります。

中堅・中小企業等のDX優良事例を選定・公表するDXセレクション(経済産業省)では、制度開始から4年連続で北九州市内企業が選定されており、北九州DX大賞からモデルとなる企業が生まれつつあります。令和7年度の北九州DX大賞受賞企業は以下のとおりです。

グランプリ:プーラビダ株式会社
準グランプリ:株式会社池間組、有限会社白石書店
優秀賞:シャボン玉石けん株式会社、株式会社不動産中央情報センター

image2.jpeg北九州DX大賞受賞企業の皆様

シャボン玉石けん株式会社(優秀賞)は、「GXとDXの融合」を軸に、工場内の電力消費の可視化に取り組みました。市販品より大幅に低コストな電力センサーを内製し、取得データをもとに社内でダッシュボードも開発しました。蓄積したデータを設備更新の判断材料とした結果、2024年から2025年にかけて電力コスト97万円削減、CO2排出量15.75トン削減を達成しました。

株式会社不動産中央情報センター(優秀賞)は、20代から70代までの全スタッフが使える「全員参加型DX」を重視し、業務棚卸しのQC活動を継続的に実施しました。稟議ワークフローの電子化、RPAによる単純作業の無人化、オンラインでの重要事項説明などを進めてきました。発表では、IT化の前段階として業務の整理整頓を徹底することの重要性が語られました。

image3.jpeg株式会社不動産中央情報センター 濱村美和 氏

株式会社池間組(準グランプリ)は、「業務の見える化」「本社支援体制の確立」「データの一元管理」を基本方針に、現場と本社の役割を再定義しました。書類作成や写真整理、電子納品対応を本社側で支援する体制を整備し、現場技術者が施工管理業務に集中できる仕組みづくりを進めました。

有限会社白石書店(準グランプリ)は、学校販売に特化した教科書販売キャッシュレスサービス「Raku-Buy」を独自開発し、スマートフォン注文、事前キャッシュレス決済、自宅への直接配送を実現しました。自由ケ丘高等学校での新入生販売では、従来14人の販売員で3時間以上かかっていた業務が、完全宅配への切り替えによって「販売員ゼロ・販売時間ゼロ」になったと発表しました。

プーラビダ株式会社(グランプリ)は、高額な専用システムを見直してGoogleツールに統一したほか、Geminiを活用して医師への報告書作成を自動化し、報告書送付にかかる時間を2時間から3分に短縮しました。効率化によって生まれた時間の余裕を、スタッフの人間力を高める取り組みに活用した結果、かつて83.3%だった離職率は大きく改善し、直近2年間の離職者は1人となりました。2年連続の黒字化と臨時賞与の実現にもつながっており、厚生労働大臣表彰も受けています。

image4.jpegプーラビダ株式会社 浦濱広太朗 氏

第2部「地域DX推進の現在地と未来」

第2部の開始にあたり、FAISの糸川郁己が、北九州市域におけるDX推進の経緯と現状を説明しました。

北九州市では2002年の「北九州e-PORT構想」以来、情報インフラの整備と産業のデジタル化を段階的に推進し、2022年の北九州市ロボット・DX推進センター設置によってその流れが加速しています。

一方、市内中小企業の現状は、「今はまだ考えていない」と回答する企業が約3分の2を占め、先進的に取り組む企業との二極化が進んでいます。デジタル化に取り組んだきっかけとして、社内からの内発的な動機付けによるケースは全国的に見ても2割にとどまり、FAISのデジタル相談窓口への相談も約半数が既存利用者からの口コミ紹介です。

糸川はこうした状況を踏まえ、「個別支援だけでなく、面的なつながりを作っていく必要がある」と述べ、経産省のDXレポート2.2にヒントがあるとし、同じ価値観を持つ企業同士が相互に高め合う社会運動論的アプローチの重要性を示しました。

パネルセッション①「地域DX推進の現在地」

続いて、「地域DX推進の現在地」をテーマにパネルセッションが行われました。

モデレーター:丸川正吾さん(三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社 主任研究員)
パネラー:川口千恵子さん(熱産ヒート株式会社 代表取締役社長)、古長由里子さん(日本アイ・ビー・エムデジタルサービス株式会社 執行役員 九州DXセンター長兼ブランド推進担当)、矢野宏之さん(北九州情報サービス産業振興協会 会長)、井川浩二さん(株式会社ふくおかフィナンシャルグループ DX推進本部 副本部長)

モデレーターの丸川さんは冒頭、「成功事例を紹介するセッションではない。DXがここまで進んでいるのになぜうまく進まないのか、そのモヤモヤをみんなで共有するセッションだ」と位置づけを示しました。

地域でDXが進まない背景

川口さんは、社内にDX人材がいない中で、自社の課題に合う人材をどう見極めるかが難しいと指摘しました。「周囲に相談してみることで解決に近づけることは分かってきた。ただ、自社の課題にフィットする人材をどこで見つければいいか、そのマッチングがとても大変だ」と語りました。

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三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社 丸川正吾 氏(左)、熱産ヒート株式会社 川口千恵子 氏(右)

古長由里子さんは、DXはゴールや指標を立てにくく、即効性を求めるものではないと指摘しました。「今は、AIが前提となる世界のスタートラインに立てるかどうかという局面にあり、経営者の覚悟が問われている」と述べました。さらに、DXが進んでいる企業では若手や女性の登用など多様性も進んでいるとし、両者には相関があるのではないかと示唆しました。

矢野宏之さんは、DX推進の障壁として次の2点を挙げました。1つ目は経営者の危機感の不足、2つ目は、支援したいというIT企業側の意向と中小企業側のコスト感がかみ合わないことです。

井川浩二さんは、グループ(ふくおかフィナンシャルグループ)内の各社も中小企業と同程度の規模であるため、DXを隅々まで浸透させることの難しさを強く感じていると語りました。そのうえで、デジタル化は外部要因によって「やらざるを得ない」状況に追い込まれたときに最も進むと指摘しました。手形・小切手の廃止や電子帳簿保存法、インボイス制度の導入が、その好例だと述べました。

地域DXを前に進めるための視点

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左から、日本アイ・ビー・エムデジタルサービス株式会社 古長由里子 氏、北九州情報サービス産業振興協会 矢野宏之 氏、株式会社ふくおかフィナンシャルグループ 井川浩二 氏

川口さんは「できないからやらないという言葉と、できないからやってみようという言葉の違いをいつも考えている」と話し、社員を抱える経営者として、「DXをやらない選択肢はない」という立場を示しました。

古長さんは、北九州市にUターンして感じた「人の距離の近さ」や「心地よいおせっかい文化」といった地域特性に触れました。そのうえで、うまくいったことも失敗したことも率直に語れる、この地域の土壌を生かしていきたいと述べました。

矢野さんは、地場IT企業自身もAI・生成AIの波を受ける立場にあると話しました。そのため、自社のDXを進めつつ、地域企業への支援も展開していく必要があると述べました。ノーコード・ローコードを活用した支援型サービスの展開などを通じて、地域DXの「第一歩を後押しできる立場」としての役割を担っていきたいと語りました。そのうえで、「ボランティア的にやると永続性がないので、ビジネスとして形作る努力が必要だ」と語りました。

井川さんは「北九州市や民間企業など、支援者同士のコミュニティの中に銀行もしっかり入りたい。銀行が一番得意とするのは、2,000〜3,000人の営業マンが、お客様の経営課題を拾ってくること。その課題解決にコミュニティの力を生かしたい」と語りました。

登壇を終えた川口さんは、「DXへの取り組みを進める人と進めない人の差は、これからどんどん広がってくる。『やらない』という選択はしてほしくない」と改めて語りました。そのうえで、「自分は後継者の立場だが、次の後継者を支援できることがあるかもしれないと感じた」と話し、経験の共有や次世代への橋渡しの必要性にも触れました。

地域DX共創プログラム「HAGUKUMI」最終発表会

続いて行われた地域DX共創プログラム「HAGUKUMI」最終発表会では、採択された7団体が1年間の活動成果を発表しました。「HAGUKUMI」は、北九州市内の企業や団体が横のつながりを生かし、ともに課題解決に取り組む共創活動を支援するプログラムです。

北九州市IoT実践研究会(中野貴敏さん/株式会社戸畑ターレット工作所 DX推進室 室長)

image7.jpeg北九州市IoT実践研究会 中野貴敏 氏

6年前から北九州市内企業のIoT活用と情報共有を目的に活動している研究会で、現在17者が参加しています。ITエンジニア、生産管理、経理、人事、行政など多様な職種のメンバーが参加しており、ビジネスライクなサービス説明会は行わず、純粋な技術情報交換の場としています。

今年度はサイバーセキュリティBCPをテーマに取り組みました。各企業の業種・部署・緊急性に応じた個別BCPの必要性を確認し、GoogleのNotebookLMを活用してサイバーセキュリティのベース情報と各企業の情報を組み合わせることで、その企業に合ったBCPを効率的に作成する手法を検討しました。「コンサルタントに数百万円払って正解をもらうのではなく、自分たちで何が起こりうるかを考え、勉強することが大切です」と中野さんは話しました。

北九州市IoT実践研究会】の活動インタビューはこちら:https://www.ksrp.or.jp/robo-dx/blog/archives/2026/010643.html

ファーストタッチDXラボ(清水常平さん/株式会社エンビジョンナッジ 代表取締役)

DXに最初に触れる場を意味する名称のもと、デジタル化の初動段階にある企業を対象にした取り組みを展開しています。電子契約を導入した企業と紙の契約書を使い続ける企業とでリソースがどう変化するかをカードゲームで体験できる「DX体験カードゲーム」を開発しました。カードのデザインや3Dプリンターを活用したコンポーネントの追加は西日本工業大学の学生の発案によるものです。自社の業務を棚卸しして課題を可視化する「DX最初の一歩ワークショップ」と組み合わせた体験プログラムも整備しています。

北九州ひびきのでのセミナー開催、高崎商科大学での体験会実施、企業研修への採用など、活動の広がりも報告されました。「北九州で生まれたこの取り組みを全国に広げたい」と清水さんは語りました。

ファーストタッチDXラボ】の活動インタビューはこちら:https://www.ksrp.or.jp/robo-dx/blog/archives/2026/010635.html

健康経営DX推進コンソーシアム(三賀山史朗さん/株式会社リライブ)

image8.jpeg健康経営DX推進コンソーシアム 三賀山史朗 氏

総合病院での12年間のリハビリ業務の経験から、「悪くなってから治す」では遅いという問題意識で立ち上げた取り組みです。北九州市のアンケートでは「健康作りに取り組んでいない」企業が多い一方、「必要だと思う」企業が8割以上を占めるというギャップに着目しました。「このギャップこそ、DXと相性が良い領域なのです」と三賀山さんは語ります。

腰痛リスクを判定するセンサー、出退勤時の気分を記録する「お天気勤怠」など複数のデータを組み合わせた健康管理システムを開発・導入しており、数値化によって初めて見えてきた個人差が現場の改善につながっています。

健康経営DX推進コンソーシアム】の活動インタビューはこちら:https://www.ksrp.or.jp/robo-dx/blog/archives/2026/010646.html

スマートファクトリー研究会(舘下繁仁さん/松本工業株式会社 代表取締役社長)

製造業企業とIT企業が連携し、失敗事例も含めた情報共有を重視した活動を展開しています。「生々しい失敗事例を紹介することで、これから取り組む企業が無駄な回り道をせず投資できるよう助言したい」と舘下さんは話します。

今年度はセミナーや工場見学会を実施し、製造業以外の情報産業・サービス業・医療機関からの参加者も加わりました。AIエージェントに工場管理を担わせる「スマートファクトリー2.0」構想でデンソーと共同でコンペに応募し、地域賞を受賞しています。

スマートファクトリー研究会】の活動インタビューはこちら:https://www.ksrp.or.jp/robo-dx/blog/archives/2026/010640.html

北九州生成AI研究会(井上研一さん/株式会社VIVINKO 代表取締役)

中小企業が生成AIを組織として活用し成果を出すための場づくりを目的に活動しています。井上さんはITコーディネータ協会の中小企業向けAI活用ガイドの執筆リーダーも務めており、北九州での取り組みを全国へフィードバックする接点も持っています。「個人の業務効率化でChatGPTを使う人は増えているが、組織全体のビジネスプロセスに組み込んでいる企業はまだ少数派ではないか」と問いかけます。今年度は公開セミナーを2回開催し、来年度は「点から面へ」と展開を広げていく方針です。

北九州生成AI研究会】の活動インタビューはこちら:https://www.ksrp.or.jp/robo-dx/blog/archives/2026/010637.html

製造業IoT活用研究会(平畑輝樹さん/イジゲングループ株式会社)

昨年度のアンケートで「IoTは難しい」と回答した企業が66.7%に上ったことを受け、今年度は難しさの所在を検証しました。センサーの無償レンタルを通じた調査の結果、難しさは導入後ではなく導入前のセンサー選定や設置段階にあることが明らかになりました。

製造業企業への導入実績も生まれ、不動産会社からの鍵管理へのIoT活用など製造業以外からの引き合いも増えています。来年度は業界ごとの導入パッケージ作りを目指すとしています。

北九州生成AI研究会】の活動インタビューはこちら:https://www.ksrp.or.jp/robo-dx/blog/archives/2026/010641.html

ケア共創ネットワーク(山﨑駆さん/合同会社共創テクノロジー CEO)

image9.jpegケア共創ネットワーク 山﨑駆氏

介護現場のノウハウのデジタル化と共有を目指す取り組みです。今年度の中心は3Dプリンターを活用した自助具製作のDX化で、紙粘土による試作の繰り返しを3Dデータ化することで修正・複製を効率化しました。実施したイベントでは参加者の約9割が「施設に3Dプリンターを導入したい」と回答しました。今後は設置サポートの仕組みづくりと協力者の確保が課題として挙げられました。

ケア共創ネットワーク】の活動インタビューはこちら:https://www.ksrp.or.jp/robo-dx/blog/archives/2026/010659.html

発表後、山﨑さんは「去年よりも前向きに話を聞いてくださる方が増えた感じがした。介護テック・福祉テックへの理解が徐々に広がってきています」と述べ、小倉北区馬借にある「テクノケア北九州(北九州市立介護実習・普及センター)」を活動の核として「来年度もこれらの活動をアップデートして続けていきたい」と前向きな姿勢を示しました。

また、中野さん(北九州市IoT実践研究会)は「DXに取り組む人たちが同じ方向を向き始めているので、バラバラにやるより一緒にやったほうがいいのではないか」と語り、清水さん(ファーストタッチDXラボ)は「今日のセッションが終わった後にも早くもコラボが始まった」と述べ、北九州のつながりやすさを実感していました。

パネルセッション②「地域DX推進がもたらす未来」

最終セッションでは、「地域DX推進がもたらす未来」をテーマに、AI時代における仕事や産業構造の変化、地域企業に求められる役割について議論が行われました。

モデレーター兼パネラー:中哲成さん(株式会社kubell COO室 室長)
パネラー:一ノ瀬謙二さん(大英産業株式会社 代表取締役社長)、下岡純一郎さん(株式会社クアンド 代表取締役CEO)、伊佐山大智さん(独立行政法人情報処理推進機構 デジタル基盤センター デジタルトランスフォーメーション部 DX推進グループ グループリーダー)

各パネラーの現状と取り組み

image10.jpeg左から、大英産業株式会社 一ノ瀬謙二 氏、株式会社クアンド 下岡純一郎 氏、独立行政法人情報処理推進機構 伊佐山大智 氏

一ノ瀬さんは大英産業株式会社の取り組みを紹介しました。同社は守りのDXから社内外のデータ連携基盤の整備へと進み、令和6年度北九州DX大賞の優秀賞も受賞しています。現在は、分譲マンション事業において、土地情報が入った瞬間にAIが事業計画と収益をシミュレートするシステムの構築を目指しています。

下岡さんが代表を務める株式会社クアンドは、「地域産業・レガシー産業のアップデート」をミッションに掲げています。現場監督のリモート化に特化したビデオ通話システムの開発からスタートしましたが、外部からDXを提供することの限界を感じたことをきっかけに、宮崎の建設会社をM&Aして自社グループに加え、テクノロジーを介入させてオペレーションを変えるという手法を実践しています。M&A後1年目で、社員数を変えずに売上が約1.5倍から1.7倍、利益が3倍になったという成果を報告しました。

中さんは、株式会社kubellのコア事業のビジネスチャット「Chatwork」で培った100万社近い利用実績をもとに、DXという言葉をあえて使わない業務代行サービス「BPaaS(Business Process as a Service)」を展開していると紹介しました。中小企業の経理などをオンラインで代行することで、「気がついたらDXが始まっている」状態を作るアプローチで、全国の中小企業のバックオフィス業務をオンラインで代行しています。

伊佐山さんは、IPA(独立行政法人情報処理推進機構)が提供するDX推進指標(自己診断ツール)、DX認定制度、デジタル事例データベースの3つのツールを紹介しました。現在のDX推進指標が300人以上の組織を対象としているため、地方の中小企業には届きにくい実態を認め、2026年度は中小企業向けの施策を打っていく方針も示しました。「AIを活用して伸びていく企業と、活用の進まない企業の二極化が進む中で、一企業一企業の事例を横展開することに注力したい」と語りました。

AIがもたらす仕事と産業構造の変化

下岡さんは「AIに作業をさせると、人間の承認のためだけに仕事が止まる場面があると感じた。すべてのルールとデータが整っていれば自動化できるが、多くの会社はそうなっていない」と述べた一方、「現場や営業など人と接する部分はAIには代替できないが、事務的な作業などはAIの活用によりなくなるのではないか」とも述べました。

一ノ瀬さんは、AIの浸透によって地方の人材のキャリアが大きく三つに分かれると見ています。その方向性は、AIを使いこなして事業を動かす人材、指示されたことを徹底してやり切る人材、そしておもてなしや対人サービスに特化する人材です。また、「AIに仕事をさせることで生まれた時間を、人と人との関わりやコミュニティが豊かな社会づくりに使えたら嬉しい」と述べました。

地域全体での底上げについては、競争領域と協調領域を分けて考えることが重要だという議論もありました。一ノ瀬さんは「2027年に登記の自動化が法務局まで可能になる予定。これを九州全体の住宅業界で共同開発すれば、業界全体のコスト削減と給与水準の底上げにつながる」という構想を紹介しました。

下岡さんは「AIは何かに掛け合わせてさらに強くなる技術。地方のエッセンシャルワーカーを支えるエッセンシャルな仕事にAIが導入されたときの変化量は非常に大きいのではないか。そういう意味では、地方にこそチャンスがある」と述べ、伊佐山さんも「AI×αという形で考えた方が、AI単独より新たなものを生み出せる感じがする」と共感しました。

北九州の地域特性として「プレイヤーが顔見知りでつながりやすい」「よそ者も受け入れてくれる」という声も上がりました。中さんは「地域の中に顔を出し続けてくれるパートナーがいることで、技術やサービスを届けることができる」と述べ、一ノ瀬さんは、北九州のような人口減少が進む政令市だからこそ課題感が共有されやすく、業種を越えた連携が生まれやすいという見方を示しました。

AI時代に向けた各登壇者の展望

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株式会社kubell 中哲成 氏

セッション終盤、「地方のリーダーとしてAI時代に向けて自分は何をするか」という問いが投げかけられました。下岡さんが宮崎の建設会社での経験を語る中で、話題は事業承継へと広がりました。伊佐山さんが「地方に行くと事業承継がキーワードになる。DXやAIをその文脈で考えたい」と問いかけたことをきっかけに、各パネラーが自社の取り組みを重ねながら語り合いました。

下岡さんは宮崎の建設会社をM&Aしたときの経験を振り返り、「担当者をひとり現地に送り込んで、DX担当として社長と従業員の間に配置し、業務フローをすべて洗い出して変えていった。この人材の存在が最も重要だった」と述べました。「事業承継とはすでにある人とオペレーションの資産を受け継ぐことでもある。だからこそ、業務フローを洗い出してテクノロジーを入れていくやり方が効果を発揮しやすい」と語り、このような、地方の企業とスタートアップが連携する事例を、建設業以外の業界でも作っていきたいと語りました。

下岡さんの話を受けて伊佐山さんは、前職でベテラン技術者を本部の集中管理室に置き、スマートグラスを装着した若手が現場に赴くリモート保守を実践していたと話しました。化学メーカーや石油会社のタンク点検では、はしごをかけると危険な点検作業をドローンの活用で安全に行えるようにしたといいます。「ベテランのノウハウをデジタルで若手に継承する取り組みは、事業承継という文脈でも使えるのではないか」と語りました。そのうえで、「各地方の経済産業局(経済産業省の地方支分局)および地方の支援団体と連携して地方独自の事例をIPAのデジタル事例データベースに集約し、横展開することで地域全体の底上げにつなげたい」と力を込めました。

一ノ瀬さんは「企業間を超えた人材交流や育成が鍵になるのではないか」と答え、既に、自社の情報戦略メンバーを他社に派遣する取り組みを行っていると紹介しました。

そして、中さんは「良いサービスを作ることに尽きる。Chatworkの全国100万社近いネットワークを生かして、北九州発の全国向けサービスを展開することを成し遂げたい」と締めくくりました。

地域DXの現在地から未来へ

参加者からは「DXやAIに苦手意識を持たず、しっかりと向き合っていきたい」「枝葉の施策だけでは進まない。会社の業務やビジネスモデルそのものを見直す機会にする必要がある」などさまざまな声が聞かれました。ある参加者は「デジタルと現場、あるいは経営者と現場の間をうまくつないだ存在は、生成AIの時代においてこそ、その価値があると改めて感じた」と振り返りました。

北九州市におけるDX推進は、個社単独の取り組みにとどまらず、地域全体で学び合い、支え合いながら進めていく段階に入っています。本フォーラムは、その現在地を確認するとともに、今後の可能性を共有する機会となりました。