北九州DXツアー2026実施レポート
技術ではなく現場と組織 5社の実践から見えた「次の一手」
製造、建設、訪問看護・リハビリ、書店、不動産。業種の異なる5社を訪ねて見えてきたのは、 個別のツールやシステムを超えて共通する、DXを動かすための考え方でした。
- 5社視察先
- 5業種異なる現場
- 延べ89名参加者
- 75件アンケート回答
- 7つ横断的な学び




北九州DXツアーは、先進的な設備やサービスを見学することだけを目的としたプログラムではありません。 なぜ取り組みを始めたのか、どのような壁に直面したのか、現場との関係をどう築いたのか。 実践者の言葉と現場に触れ、自社に置き換えて考えることを重視しています。
今回訪問した5社では、AIカメラ、センサー、ドローン、クラウドツール、生成AI、RFID、業務アプリなど、 多様な技術が活用されていました。一方、参加者の学びとして多く挙げられたのは、 技術そのものよりも、課題の捉え方、組織の動かし方、定着までの試行錯誤でした。
2026年6月から7月にかけて、業種の異なる市内5社を訪問しました。 各回では、取り組みの背景や試行錯誤を伺うとともに、現場見学、デモンストレーション、 質疑応答、参加者同士の意見交換を行いました。
| 回 | 開催日 | 訪問先 | 参加者数 |
|---|---|---|---|
| 第1回 | シャボン玉石けん株式会社 | 21名 | |
| 第2回 | 株式会社池間組 | 19名 | |
| 第3回 | 株式会社プーラビダ | 20名 | |
| 第4回 | 有限会社白石書店 | 18名 | |
| 第5回 | 株式会社不動産中央情報センター | 11名 | |
| 全5回・参加者数 | 延べ89名 | ||

現場の「欲しい」を起点に小さく試し、内製と投資を使い分ける。

現場にツールを渡すだけでなく、本社の役割を再設計して現場を支える。

人を中心に据え、専門職の知恵を組織の力へ変える。

構造的な制約の中で、生き残るための変革を業界へ広げる。

定着しなかった経験も公開し、次の改善に転換する。
5社に共通していたのは、デジタル技術の導入自体を出発点にしていないことです。 製造現場の負担、施工管理に付随する事務作業、訪問看護の属人化、教科書販売の混雑と現金管理、 複雑化した業務やシステム。まず具体的な困りごとを捉え、その解決手段として技術を選んでいました。
「AIを使いたい」「紙をなくしたい」という手段から議論を始めると、現場に合わない仕組みを導入する リスクがあります。誰の、どの業務に、どのような負担や機会損失があるのかを言語化することが、 DXの最初の設計になります。
流行りだからやるのではなく、現場の課題を解決するために、デジタルツールを入れる。 参加者アンケートより
デジタル化によって入力項目や操作手順が増えれば、現場にとっては「これまでの業務に新しい作業が 加わっただけ」になりかねません。池間組では、現場と本社の役割を整理し、本社が事務作業を支援する 体制を整えることで、現場技術者が施工管理に集中できる状態を目指していました。
プーラビダでも、効率化によって生まれた時間を、利用者へのケアや職員同士の対話、学習へ振り向けて います。DXの成果は、削減時間だけでなく、その結果として人が何に集中できるようになったかで 捉える必要があります。
現場への浸透方法として、現場の負担をバックオフィス側で受け取る姿勢が、成功への第一歩だと感じた。 参加者アンケートより
方向性を曖昧にしたまま現場へ任せても、変革は進みません。一方、トップダウンだけでは、 現場にとって「やらされるDX」になります。経営層が目的と優先順位を示し、現場が課題や改善案を 発信し、その動きを経営層が支える往復が必要です。
各社では、専門部署の設置、現場訪問、社員アンケート、部門横断プロジェクト、チャットでの改善共有など、 さまざまな方法でこの往復をつくっていました。技術の導入速度を決めるのは、組織内の対話の速度でもあります。
トップダウンで進めていたが、フィードバックを取っていなかった。早速、現場の声を取ろうと思う。 参加者アンケートより
シャボン玉石けんでは、現場から要望が上がったものを、まず自分たちで試作し、現場への適合と効果を 確認していました。白石書店の取り組みも、身近な表計算ツールによる改善から始まり、失敗や見直しを 重ねながらサービスへ発展しています。
DXでは、失敗しない計画を作ることよりも、修正できる範囲で試し、得られた知見を次の判断に使える 状態をつくることが重要です。小さな成功は、費用対効果の確認だけでなく、社内の理解を広げる材料にもなります。
最初はスプレッドシートからだった、という話に勇気づけられた。 参加者アンケートより
複数の視察先で「内製化」が語られましたが、すべてを自社で開発することが正解という意味ではありません。 自社の現場や業務を理解し、何を自分たちで試し、何を外部の製品・専門家に任せるかを判断できることが 重要です。
外部事業者へ丸ごと委ねれば、現場の要望とのずれが生まれることがあります。一方、何でも内製しようと すれば、開発や保守に人材を取られ、本来の価値創出に集中できません。内製と外部活用の境界を設計する ことも、DX推進の中核的な能力です。
内製化と外部ベンダーの活用をどう使い分けるかが参考になった。 参加者アンケートより
不動産中央情報センターでは、導入したシステムが部分最適となり、複数の仕組みが共存して混乱を招いたこと、 目的が現場と共有されず、使われなくなったものがあったことも率直に共有されました。
現在は、全社員に高度なAIスキルを求めるのではなく、利用者が技術を意識しなくても、日々の業務の中で 自然に活用できる入口づくりを進めています。機能の多さよりも、迷わず使えること、既存業務の流れに 組み込まれていること、改善を続けられることが定着を左右します。
全社員がAIを使いこなす必要はない。知らないうちに全員がAIを使っている状態をつくる。 参加者アンケートより
製造現場の職人技、施工経験、訪問看護職の判断、書店員の販売ノウハウ、不動産管理の業務知識。 企業の強みは、多くの場合、個人の経験の中にあります。記録し、共有し、再利用できる状態にすることで、 個人の暗黙知は組織の資産になります。
さらに白石書店の学校販売サービスのように、自社の課題解決から生まれた仕組みが、同じ課題を抱える 他社や業界へ広がる可能性もあります。個社の実践を一方向に紹介するだけでなく、企業同士が成功・失敗を 持ち寄る関係をつくることが、地域DXの次の段階です。
個社のDXだけでなく、業界全体に共有し、横展開していく共創の視点も重要だと学んだ。 参加者アンケートより






全5回で75件の回答が寄せられました。すでに全社的にDXへ取り組む企業から、 これから着手する企業まで、異なる段階の参加者が現場を訪れています。 明確に「自社には活かせない」とする回答はなく、各社が自社なりの次の行動を考える機会となりました。
- いま、最も時間や負担がかかっている業務は何か ツールではなく、具体的な困りごとから考える。
- その業務で、本当に困っているのは誰か 経営層、管理者、現場担当者、顧客の視点を分ける。
- 現場の負担を増やさずに進めるには、役割をどう変えるか 業務の移管、標準化、バックオフィス支援も含めて考える。
- 2週間から1か月で試せる最小単位は何か 小さな実践で、効果と課題を確認する。
- 自社で担うことと、外部へ任せることをどう分けるか 内製・外注の二択ではなく、判断と改善の主導権を持つ。
- 導入後、誰がどの入口から使い続けるのか 運用、教育、問い合わせ、改善まで設計する。
- 他社と共有できる非競争領域の課題は何か 一社で抱えず、業界や地域の学びへつなげる。
今回のツアーでは、完成された成功事例だけでなく、導入時の反発、定着しなかった仕組み、 開発の失敗、組織内の葛藤についても率直に語っていただきました。 だからこそ、参加者は仕組みをそのまま持ち帰るのではなく、自社で何から始めるかを具体的に考えることができました。
FAISでは、北九州DXツアーによる実践事例の共有に加え、HAGUKUMIをはじめ、 他社との連携によってデジタル化・DXを進める地域DX共創事業を展開しています。 一社の経験を地域の学びへ変え、次の挑戦が生まれる循環を育てていきます。
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