Vol.4 ハインツテック株式会社

北九州市内の産学連携の推進を目的に、大学、研究機関、企業等で構成された北九州学術研究都市(以下、「学研都市」)。産学連携の「産業」を担う、企業や研究機関等も学研都市内の施設に入居されています。現在、学研都市に入居企業や研究施設の皆様に、入居理由やメリット、現状などをうかがいました。

細胞加工技術の可能性を拡げて
バイオテクノロジーの進化をリードする

2021年、早稲田大学大学院情報生産システム研究科の三宅研究室で開発されたシーズ技術の事業化を目的に設立されたハインツテック。早稲田大学情報生産システム研究開発センター、産学連携センター別館、事業化支援センターにおいて、特殊なナノ構造を持つ「ナノチューブ膜スタンプ」で、従来導入が難しかったたんぱく質などの高分子を短時間、高効率、高生存率で細胞に導入、抽出することができる細胞加工技術や、それを実現するための装置・アプリケーションを研究開発しています。

Q. 入居のきっかけは

A. 三宅研究室の技術シーズを事業化するため、起業と同時に学研都市に入居しました。大学の技術を会社に移転していく際に、私たちのようなモノづくりの分野では、ちょっとしたパラメータや環境の変化で結果が全く変わるということがよくあります。これをいかに再現して、かつ売り物にしていくかという観点では、技術シーズを生み出した研究室が物理的に近い方がいいということで、ここに入居を決めました。 私自身は、学生時代に早稲田大学で似たような研究をしていました。卒業後は海外の大手技術系企業で事業開発、市場開発等に従事していたのですが、細胞加工の技術を事業化する話を聞いた時に、技術背景が理解できたことや、ビジネス観点の視点からも、面白い、やってみたいと思いました。会社勤めから起業という道を選んでいるわけですが、新しい技術をどうやって事業化するか、ということはこれまでのキャリアを通じてずっと続けています。共同創業者の三宅先生は、学生時代、同じ研究室に在籍していたため、技術背景などに関する意思疎通がスムーズにできることは非常に強みだと感じています。

Q. 学研都市・北九州市拠点のメリットは何ですか

A. 三宅先生の研究室の隣で仕事ができるというのは一番のメリットですね。共同研究開発センター(半導体の研究・試作施設)が利用できるのも良いポイントです。また、新たに学研都市の別分野の先生方との共同研究も生まれました。ここにはいろいろな分野の先生方がいらっしゃるので、お互いに新しい相乗効果が生み出せることは、すごくいいところだと思います。また、北九州市やFAISの助成金も活用させて頂いております。賃料も3年間は半額でしたし、それが終わっても他の地域と比べると圧倒的にリーズナブルです。北九州市がスタートアップ企業を熱心に支援してくださっていることもあって、県外からも「北九州いいな」という声をよく聞きます。

Q. ハインツテックの強みとは

A. 当社は年齢や性別の観点だけではなく、専門分野やバックグラウンドが異なるスタッフで構成されていて、ダイバーシティ豊かな職場です。同じバイオでも動物細胞に強い人、微生物に強い人と様々ですし、製造側には場所柄か、製鉄関係の出身者もいて、多様な観点を取り入れることができます。私たちの技術は、入口が微細加工技術で、出口がバイオテックという融合領域です。一つの技術的事象に対して、様々な角度から意見が出てくるというのは、大きな強みになります。細胞に物質を導入する技術は、化学・生物的手法と物理的手法と大きく二つの従来法が確立されていて、グローバル大手企業がシェアを持っていますが、世界では私たちのような企業が開発した新しい技術がちらほら出始めている、いわば過渡期です。日本ではまだ同じような分野の方が多くはないのですが、そのような中で新しい技術を世の中に送り出せるのも、多様なバックグラウンドを持つ組織があってできていることなのです。
写真は、ナノチューブ膜スタンプ(左)と電子顕微鏡で拡大した針。

Q. 今後のビジョンを教えてください

A. 先ほどの従来法は、今では当たり前に使われている技術ですが、より効率的に、簡単に、新しい加工も可能となる私たちの開発している技術を、将来的には世界中の方々が当たり前に使っていただける世界にしたいなと思っています。そのために今やっていることを着実に前に進めていくことが重要だと考えています。装置とアプリケーションの開発、またそれをどう皆様に使っていただくかというところを、バランスを見ながら進めて、早く皆様に届けられるようにしたいという想いで、日々精進しています。また、この技術の出口は現在、再生医療、細胞治療という医療関係にフォーカスしていますが、他にも食品分野や環境分野での品種改良などにも応用できるため、そのような分野の種まきにも着手しています。このような形で、私たちの細胞加工技術が使える分野をどんどん広げていきたいです。そうして、バイオテックの進化をリードする会社のひとつに位置づけられたらいいなと思います。(2025年7月取材)

ハインツテック株式会社
https://hyntstech.com/

代表取締役社長 青木睦子

アメリカのシアトルに住んだとき、それまでは移動手段が電車だった東京での生活から、車がないと生きていけないアメリカの環境に驚きつつ、海や山、湖といった自然に囲まれた環境に親しんだそうです。シアトルの環境は北九州にも似ているとか。研究者、社長業、母親…etc…という忙しい日々を送る青木さんですが、息子さんと一緒に空手の指導を受けている時がリフレッシュできる時間なのだそうです。